こんにちは!
Exploratoryの西田です。
先週アメリカで、United Healthcareという保険会社のCEOがニューヨークの路上で暗殺されました。(リンク)その様子が写っている動画がソーシャルメディアを含めたで一斉に広がったため多くの人がショックを受けていました。(リンク)
現場で発見された暗殺に使われた弾には「deny」、「defend」、「depose」という言葉が書かれていたとのことですが(リンク)、これは保険業界の長年にわたる悪徳なビジネス慣行について書かれた「Delay, Deny, Defend」という本からとってきた言葉だろうと言われています。
この本に書かれているように、アメリカの保険会社は加盟者が保険の適用を申請してもなんとか言い訳をしたり、申請手続きを必要以上に複雑に、そして面倒なものにしたりすることで有名ですが、その中でもひどいのが今回CEOが暗殺されたUnited Healthcareです。
LendingTreeが行った調査によると30%以上もの申請が拒否されたとのことで、その拒否率の高さは業界トップです。
もちろん、だからといってこうした暴力や殺人はとうてい受け入れることはできませんが、今回の事件で保険業界の黒い側面にスポットライトが当たったというのも事実です。
現在、今回の殺人事件を伝えるメディアやソーシャルメディアのコメントセクションにはUnited Healthcareの「悪徳」なビジネス慣行に対する多くのコメントが寄せられています。
アメリカでは保険は個人やビジネスが保険会社から直接買うもので、さらに新規参入を難しくする複雑な規制はあるのですが、加盟者を守るべきの規制は緩いため、保険会社は加盟者よりも株主を優先して儲け主義に走ってしまうという傾向があります。
こうした背景が、今回のような事件につながってしまったというのであれば、まさに悲劇であります。
データ、AI関連ニュース
お年寄りしか使わなくなったGoogle検索
今から20年ほど前に何か疑問、または何か思い出せないことなどがあればよく、「ググれば?」という言葉が流行っていた頃がありました。
友達と話している時など、それまではわからないことがあっても思いつくまま話を進め、なんとなく終わるというのが当たり前だった時代に、スマホを開けてグーグル検索をすれば、たいていの場合すぐに答えがわかるというのは、当時たいへん衝撃的なことでした。
その後マイクロソフトのBingなど他の検索エンジンが出てきましたが、グーグルの絶対的な位置を脅かすものはありませんでした。今でこそAIという言葉がもの凄く流行っていてますが、当時からグーグルの創業者たちは自分たちの会社をAIカンパニーと宣言していました。当時はグーグルの検索エンジンで使われていたページランクというアルゴリズムこそAIだったのです。
よく理解できない新しいものをAIと呼び、ある程度慣れてきて何ができて何ができないかがわかってくるとAIと呼ばなくなる、とはよく言われたりしますが、まさにグーグルの検索エンジンもそういった例の1つです。
グーグルはその後検索市場で絶対的に有利な立場を確立し、その上に広告ビジネスを作り上げることで市場価値にして世界で上位数社に入る企業となりました。あまりにも「ググる」ことが当たり前になってしまい、誰も検索市場でグーグルに真剣に挑めないほどになっていました。
これがグーグルが現在アメリカの司法省によって反トラスト訴訟で追い詰められている理由です。
ところが、ここにきて、グーグルの検索を使う人たちの数が減ってきていて、それに伴い収益も減ってきているという記事がウォールストリート・ジャーナルから出てきました。(リンク)
AI検索の登場
その大きな理由として挙げられるのが最近のChatGPTなどのAIだと言われています。
私も少し前のNews Letterでも話したのですが、ここ最近ではPerplexityやGenSparkなどがAI検索のサービスを提供していて、私自身も何か「ググり」たいときはこう言ったサービスを使うのが当たり前になってしまいました。
Exploratory Vol115(リンク)
ChatGPTを提供するOpenAIも検索機能の強化に力を入れていて、最近ではChromeブラウザーのプラグインを提供し、ブラウザーのアドレスバーから直接ChatGPTに対して検索をかけることができるようになりました。さらに現在独自のウェブブラウザを開発中であると噂されています。
もちろんグーグルも黙って見ているわけではなく、GeminiというAIサービスの開発に力を入れ、さらにグーグル検索に組み込んだりもしています。
ところが、これがグーグルにとってはビジネス的に大きな問題です。
というのも、グーグルの収益の80%近くを占める広告ビジネスの大きな収益源は、検索結果に出てきたページのリンクをユーザーがクリックすることによってお金が入ってくるビジネスです。
しかし、Geminiが検索ページで答えを出してしまうとユーザーはどこのページにも飛んで行かなくなります。つまりAIの性能がよくなればなるほど、ユーザーはいくつものリンク先に飛んで自分で答えを探しにいかなくて良くなるということです。しかしそうなると、広告主はグーグルに広告を出す価値を見出さなくなるので、広告収益は減少していきます。
AIの精度上昇 → ページに飛ばなくなる → 広告収益減少
これがグーグルが直面しているイノベーターのジレンマです。
現在のところAI検索を提供しているOpenAI(ChatGPT)やPerplexityはサブスクリプションがビジネスモデルとなっているため、他のページにユーザーを誘導する必要はありません。
もっとも、OpenAIも広告モデルを検討しているという噂もあるため、いずれ無料プランが出てきて、そうしたユーザーを対象にAIと広告ビジネスを組み合わせることになるのでしょう。ただこのAIと広告ビジネスの組み合わせはOpenAIなどの新興企業にとってもグーグルにとっても新しい市場であり、そういう意味では彼らは同じ土俵で戦うということになり、グーグルにとっては競争優位となるものがほぼないというのが現状です。
検索結果に蔓延するAIで自動生成された質の悪いページ
ところで、グーグルで検索する人が減っている理由は新しいAI検索サービスだけではありません。これはみなさんもすでに経験している人が多いと思うのですが、検索結果に出てくるページがゴミだらけというものです。
私も週末に料理をするときにレシピを探したりするのですが、そんなときに「ググる」と出てくるページがどれもこれも似たようなもので、さらにそれぞれのページを訪れると、肝心の知りたい情報に辿り着く前に、たくさんの広告バナーや動画が表示され、非常にうざったい経験をすることになります。
また、例えば新しいスピーカーを買おうとした時なども同じで、「ググる」と出てくるページはどれも似たようなページで、それぞれのページに行くとグーグルの広告プラットフォームによって動的に提供される広告バナーや動画の嵐で、そこにのってる情報もありきたりであまり有用でありません。
こうしたどれも同じようなページが検索結果のトップページに出てくるのはちょっと前までは行き過ぎたSEOのせいでもあったのですが、最近はみんなAIを使ってSEOを最適化させたページを自動的に大量に生成しています。
これが検索結果に出てくるページの多くが「本物」さに欠ける理由です。(ちなみに、これはアメリカではそうなのですが、日本では違うかも知れません。その場合はぜひ教えてください!)
こうしたこともあって、私の場合はYoutubeへ行って検索することになるのですが、こちらは私は有料会員なため広告が出てくることはなく、知りたい情報に動画付きでさっさと辿り着けます。
Youtubeの場合はインフルエンサーが自分のブランドを賭けて製品を紹介しているためより信用できます。さらにある製品のスポンサーを受けている場合は、たいていの場合そのことを公開します。
また何かの商品やそのジャンルについて検索したいときは、アマゾンに行き関連製品を比較したり調べたりします。
つまりこういうことになります。
グーグルの広告ビジネスはウェブページにより多くの人が訪問することで成り立ちます。ところが、AIによってユーザー体験と情報の質の悪いページが大量生産されることによって、ユーザーはGoogle検索の結果にリストされるそうしたページへのリンクをクリックしなくなり、ついには「ググらなくなる」。
もちろん、Youtubeはグーグルの子会社なので、Youtubeで検索するのであればグーグルにとってはいいじゃないか、という話もあります。しかし、現在グーグルの広告ビジネスの70%以上は検索からで、Youtubeの広告が占める割合はまだ13%ほど、そのYoutubeの広告収益自体も実はあまり伸びていません。
ユーザーを裏切ったWokeなグーグル
今から2年ほど前にレポートしたことがあるのですが、Googleの検索結果はかなりリベラル、民主党、左寄りのバイアスが入っています。
多くの人がこのことに気づいていないため、知らずに「ググって」いるとどんどんとリベラル寄りの考えが当たり前だと思うようになります。
そうした政治的なバイアスがより顕著だったのが白人、黒人に関するものです。
例えば、「happy white woman(幸せな白人女性)」と画像検索すると黒人といっしょにいる白人の女性、または黒人の女性の画像ばかりでした。
逆に「happy black woman(幸せな黒人女性)」と画像検索すると黒人の女性の画像が期待どおり返ってきました。
詳細はこちらに2年ほど前に投稿していますが、現在はこのあからさまなバイアスはすでに修正されています。
こうした例はグーグル検索は中立的、客観的だと思っていた人たちにとっては衝撃的で、多くの保守系、共和党、右寄りの人たちの信用を失うこととなりました。
もっとも、最近グーグルのCEOであるスンダー・ピチャイ氏はインタビューの中で、グーグルの行き過ぎたリベラル文化を修正し、個人的な政治的信条ではなく、会社のミッションを優先するよう努力しているという話をしていましたので、これから変わってくるのかもしれませんが。(リンク)
PCが出てくると、業界の主役はIBMからマイクロソフトに移りました。そしてウェブ、モバイルの時代になると主役はアップルとグーグルに移りました。現在のAI時代には、主役がOpenAIを含めた新しいビジネスに移るのかも知れません。
どちらにせよ、またイノベーションによる大きな変革の時代がやってきたということで、明日のグーグルを作るチャンスが多くの人の手にあるということでもあり、とてもエキサイティングな時代でもあります。
みんなが読んでる記事はすでにAIによって生成されている
最近の分析結果によると、ビジネス向けソーシャルネットワークのLinkedInに投稿されている英語記事の半分以上はAIによって生成されているとのことです。この傾向はこれからさらに加速するでしょう。(リンク)
トランプ政権とシリコンバレー
今回のトランプ政権はすでにシリコンバレー企業からの強い支持を集めています。最近ではMeta(Facebookなど)のマーク・ザッカーバーグ氏がフロリダのトランプ氏を訪問し、次期政権での協力事項について議論したと言われています。(リンク)
また、Paypalの創業チームでもありベンチャーキャピタリストでもあるデービッド・サックス氏がAIと暗号通貨の担当アドバイザーとして任命されました。(リンク)
次期政権では暗号通貨まわりの法的環境が整備され、起業、投資しやすい環境になり、さらにビットコインが政府の準備資産として正式に採用され、前政権のときに起きたようなAIに対する行き過ぎた規制が取り払われ、より検閲の少ないものになりそうです。
また、A16Zのマーク・アンドリーセン氏もイーロン・マスク氏とともに次期政権人事に深く関わっているとのことです。(リンク)
第一次政権時と違い、今回はかなりシリコンバレー色が強い政権となりそうです。これが吉と出るか凶と出るかは、実際に動き出し時間が経ってから出ないと判断できませんが、少なくとも民主党バイデン政権時に起きたような行き過ぎた検閲がなくなる方向に進むというのは歓迎です。
というのも、データを元に真実に近づいていくためには、自由に議論が行える環境が不可欠だからです。
AIのレースはまだまだ続く
先日イーロン・マスク氏のxAIが6ビリオンドル、日本円にして1兆円近くの資金を集めたといことが話題になっていました。これで、xAIはこの1年の間に1.5兆円以上の資金を集めたことになります。
GPU、そして原子力を始めとした電気発電所の確保など、ファウンデーションモデルの開発には相当な投資が必要とされますが、そのレースはまだまだ続くようです。
データサイエンス・ブートキャンプ・トレーニング #38
おかげさまでいつもご好評いただいおりますデータサイエンス・ブートキャンプですが、現在来年3月版への参加申し込みを開始しております。
ビジネスのデータ分析だけでなく、日常生活やキャリア構築にも役立つデータリテラシー、そして「よりよい意思決定」をしていくために必要になるデータをもとにした「科学的思考」もいっしょに習得していただけるトレーニングとなっています。
データサイエンス、統計の手法、データ分析を1から体系的に学ぶことで、ビジネスの現場で使える実践的なスキルを身につけたいという方は、ぜひこの機会に参加をご検討ください!
日時:2025年3月25日(火), 26日(水), 27日(木)
場所:東京八重洲(対面形式)
今回のニュースレターは以上となります。
それでは、素晴らしい残りの週末をお送りください!
西田, Exploratory/CEO
KanAugust