推定が実験結果と辻褄が合わなければ、それは間違っている。
このシンプルな文こそがサイエンスの鍵だ。
どんなにあなたの推定が美しかろうが関係ない。あなたがどんなに頭が良いかは関係ない。誰が推定したかも、彼が誰なのかも関係ない。その推定が実験結果と辻褄が合わなければ、それは間違っているということなんだ。それ以上何もない。
リチャード・ファインマン、物理学者
こんにちは、西田です!
私の住むアメリカでは先週木曜日がサンクスギビングでした。アメリカ人にとっては日本でいうと正月にあたるようなイベントなので、家族がみんなで集まり七面鳥などの料理を夕食に食べるというのが恒例です。
うちの家族もフロリダで知りあった人たちと集まり、サンクスギビングを祝いました。4家族ほど集まりましたが、どの家族もこの一年の間にカリフォルニアやペンシルバニア、バージニア州といった民主党政治の下、過剰なコロナ対策により自由を制限され、犯罪が増加し、さらに学校教育が崩壊しつつある州から逃れフロリダに引っ越してきた人たちばかりでした。
ところで、現在日本では第8波が来ているということがニュースになっているようで驚きました。以前もお伝えしましたが、アメリカでは民主党が強い州でさえ、コロナはすでに過去の話になっていて、マスクを着用している人を見ることもほぼなく、そもそも「波」が来ているかどうか誰も気にしていないというのが現状です。
そこで、ちょっとデータを見てみたのですが、「不都合な事実」に驚きました。(リンク)
左上のチャートは日米の人口100人あたりのワクチン摂取回数ですが、去年の夏頃に日本(緑)がアメリカ(赤)を追い抜き、それ以来その差は広がるばかりです。
しかし、右上の100万人あたりの感染者数(検査陽性者数)のチャートを見ると日本はアメリカに比べ、特に今年の夏以降ものすごく増えているようです。
日本の接種率がアメリカを超えるのは今年に入ってからですが、同じタイミングで感染者数もアメリカを圧倒的に超えるようになり、ICU(集中治療室)患者数と死亡者数は人口あたりでほぼ同じようになってしまいました。
こういう状況を考慮すれば、これまでの「コロナ対策」が効いてないどころか、逆に状況をさらに悪くしているとも言えるのではないでしょうか。
去年の東京オリンピック前、欧米と比べた日本の感染者数や死亡者数を「さざ波」と呼んで退職に追い込まれた方がいたのを覚えている人もいるのではないでしょうか。今振り返るとまさにその言葉は的を得ていたようです。当時はデータを見て見解を述べた人が感情で物言う人たちに非難されました。
フロリダ州知事や公衆衛生のトップは早い段階で、マスクやワクチンに感染予防効果がないことをデータから判断し、他の民主党の州と違い強制することもなく、今年に入ってからは、特に若年層に対するワクチンに対しては反対さえしています。しかし、当時恐怖を煽ることが仕事になってしまったかのようなアメリカのメディアからはことごとく非難され続けました。もちろん、今となってはフロリダ州が取った政策が正しかったことはメディアを含めアメリカの大半の見解となっています。
データを見ることで、政府やメディアが伝える世界と現実世界とのギャップが見えるようになり、真実に迫っていくことできます。しかし、感情に支配されている世界では、データから得られる事実を主張することは、他の人達からの非難を招くことにもなります。
これは政治、社会だけではなく、ビジネスの世界でも同じです。特に大きな規模の企業になると「上」から求められるストーリーの根拠づけのためにデータを使うことが求められることがよくあります。逆に、データから得られた自分たちのビジネスが置かれている都合の良くない事実は無視されることもあります。
データを見たり分析するときに重要となるのは、真実を求める強い信念、そして非難を恐れず主張する勇気なのではないかと思います。今こそ、特にデータを使える人は勇気を持って声を上げていただきたいと思います。
それでは以下、データに関する興味深い記事の紹介です。
最近の興味深いデータ関連記事
米中AI半導体戦争 - 2022年
State of AI Report - リンク
毎年恒例のAI業界のトレンドに関するレポートである「State of AI Report」の2022年最新版が最近出ていました。AIに関する最新のトレンドが「研究」、「業界」、規制や経済や地政学などを含む「政治」、「安全」、そして「予測」、といったそれぞれのテーマごとにまとめられています。
この中で私にとって一番興味深いと思ったのはアメリカと中国のAIに関する競争です。AIは軍事技術でもあるわけですから、まさにこの2つの大国にとっては生死をかけた「戦争」とも言える争いでもあるわけです。
そこで、米中のAI、ならびにAIの頭脳である半導体に関する競争、対立に関連するものを以下にまとめてみましたので、ぜひご参照ください。
米中AI半導体戦争 - 2022年 - リンク
TikTokはユーザーデータにアクセスできる
TikTok tells European users its staff in China get access to their data - リンク
中国のTikTokは自社の従業員が、ユーザーのデータを直接見ることができるということをヨーロッパのユーザーに認めた、ということがニュースになっていましたが、これは別にTikTokでなくてもアメリカのTwitterであれFacebookであれ、程度の差こそあれ同じようなものだと思います。なので、中国政府によるスパイという懸念はもちろんありますが、それはアメリカ政府によるアメリカテック企業を使ったスパイと同じくらいの懸念というのが正直なところでしょう。
しかし、現在TikTokは若者を中心にユーザーが欧米でどんどんと増えています。(リンク)これにより、中国政府は欧米の市民に対する影響(プロパガンダ、洗脳)という武器を持つことになるわけです。このことこそ日本を含む諸国は懸念すべきことだと思います。例えば、アメリカがTwitterやFacebookなどを使って勢いづけた「アラブの春」のようなことを、中国が仕掛けてくることがあるかもしれないということです。
データサイエンスチームには「I」ではなく「T」人材が求められる
Data May Not Drive Play, But It Should Drive Decisions - リンク
一年以上前になる記事ですが、たまたま最近目にし、使えるなと思ったことがありました。
それはデータサイエンスやデータ分析チームには、「I」の人ばかりでなく、「T」の人がもっと必要だということです。
「I」がデータや分析の専門性の深さだとすると、「T」の上の部分が専門分野を超えた幅広い知識やスキルです。
データサイエンスチームを作るときに多くの組織が間違えてしまうのが、統計やプログラミングが得意というだけの「I」の人たちばかり雇ってしまうというものです。
しかし、分析して得られた知識を他のデータや分析手法に明るくない人たちが理解できるように説明することができなければ、データを使う意味がありません。
そもそも組織におけるデータサイエンス、データ分析チームの役割とは、リーダーを含め意思決定者、施策決定者などが、より良い決定を行えるようにするためです。「こんなことが分かった」、「これは興味深いね」といったものは、意思決定に何の影響も与えない限り、ただの「趣味活動」に過ぎません。
現在、世界的に不況の波が押し寄せています。こうしたときには特に、ビジネス上の意思決定に影響を与えないデータサイエンス、データ分析のチームやプロジェクトというのは、真っ先に切られていくことになるでしょう。
逆に、ビジネス上の意思決定に影響を与える仕組み、体制ができているチームは、そのチームが生き残るだけでなく、組織、ビジネスそのものが不況を乗り切り、さらに成長していくためのエンジンとなるはずです。
様々な分析手法といった「ハードスキル」を伸ばすのはそれはそれで重要ですが、それ以上に、ビジネスにとって重要な質問とは何か、そうした質問に答えるためにはどんなデータや分析が必要最小限必要なのか、そこから分かったことと、分からないことをどのように伝えると、ビジネスにおける意思決定がしやすくなるのか、そうした意思決定をしたときのメリットとリスクはどう説明できるか、こうしたことに答えるための「ソフトスキル」も伸ばしていくことも重要ではないかと思います。
そういう意味で、「T」というシンボルは覚えやすく、説明しやすいのではないかと思いました。
データサイエンス・ブートキャンプ・トレーニング #29 & #30
次回の「データサイエンス・ブートキャンプ」は来年1月、そして3月にそれぞれ3日間集中コースとして開催することになっております。
データサイエンス、統計の手法、データ分析を1から体系的に学ぶことで、ビジネスの現場で使える実践的なスキルを身につけたいという方は、ぜひこの機会に参加をご検討ください!
ビジネスのデータ分析だけでなく、日常生活やキャリア構築にも役立つデータリテラシー、そして「よりよい意思決定」をしていくために必要になるデータをもとにした科学的思考もいっしょに身につけていただけるトレーニングとなっています。
日時:
平日3日間コース: 2023年1月18日(水), 19日(木), 20日(金)
平日3日間コース: 2023年3月22日(水), 23日(木), 24日(金)
アンケートデータ分析トレーニング 1月開催
アンケートデータを使って顧客をより深く、多面的に理解するために必要な データの加工、可視化、そして分析手法を基礎から効率的に学び、 現場で使えるスキルを身につけていただくためのトレーニングです。
日時: 2023/1/27 (金)
今週は以上です!
それでは、引き続きよろしくお願いいたします!
西田, Exploratory/CEO
KanAugust
いつも興味深いニュースレターをありがとうございます!大変勉強になるきっかけとなり、ありがたいです。
今回、Covidのデータの話がありましたが、このようなデータを見ながら議論ができるのは確かにそうだなと思います。
一方で、これだけでもないのですが、前提や仮説などデータを見る上での必要な要素が整理されていないのを度々感じます。
とはいえ、より解像度を高い細かな定性的、定量的であればあるほど、優位差はあれ、単純さは失われ、複雑になっていくことはまた課題です。
データから気づくちょっとした差異は、不確実な現実での人の選択の助けとなる、それは間違いなく、今回のCovidデータも自身にとって学びが多かったです。
引き続き興味深い話を楽しみにしています。
ありがとうございました。