Exploratory Newsletter Vol. 88
もしあなたが人々を助けたいのなら、彼らに真実を伝えるべきだ。もし自分を助けたいのなら、彼らが聞きたいことを伝えるべきだ。
トーマス・ソウェル、経済学者
こんにちは、西田です!
昨日、第25回目となるExploratoryデータサイエンス勉強会を開催しました。今回も現場でデータを使いビジネスを改善されたり、組織を変革していったりと活躍されている素敵な3名の方による発表がありました。
今回のものはまだアップされていませんが、過去の勉強会の動画はこちらより見れるようになっておりますので、興味のある方はぜひご参照ください。
皆様の発表を聞いていてつくづく思ったのは、データ分析のスキルも重要ではあるが、それ以上に重要なのは、問題意識や課題設定能力だったり、周りの人達を巻き込んでいく力であったり、データを使う意義や、データを使って分かったことがビジネスにどう関係があるのかを説明する力であったり、つまり人間としての力なのだな、ということでした。
これは何もデータ分析に限らず何でもそうですね。データサイエンスやデータ分析というとなにか専門的な仕事のようで、周りから見ると多くの複雑な分析手法やアルゴリズムを使いこなすことができる人が一流だと思いがちですが、スキルだけでなく、人間力といったものこそがその後の成功に大きく影響を持つのではないでしょうか。
アメリカではコロナはすっかり人々の頭の中から消えてしまって久しいです。マスクをしてる人もいなければ、ワクチンを打ちに行く人もいません。風邪を引いている人が何人いるかなんて誰も気にしないのと同じで、コロナ感染者が何人いるかなど誰も気にしていません。
しかし、日本では未だに第8波が来ているなどとメディアに出て恐怖を煽り、これまでも何度も出しては大きく外してきた水晶玉ほどの性能しか持たない「予測モデル」を使って一日80万人が感染するなどとTVに出て言っている「専門家」の人達がいるようです。
アメリカだけでなく世界中見回しても、コロナはすでに人々の生活にとっての重要な問題ではありません。今、日本が直面している問題は国際政治、経済状況含め数多くあると思いますが、コロナではないと思います。しかしそれでもこれを問題にしたい人達がいて、そのためにデータを使い、後で検証することもない、いい加減な「予測」を出すという現状を見るにつけ、やはりデータを使うスキルはあっても人間力がなければ、おかしな方向に向かってしまうのだなと思わざるをえません。
それだけに、これからのデータサイエンス教育には、前述のような問題意識、課題設定能力、リーダーシップ、そして「疑問を持つ力」というのも含めた人間力が求められていくのではないかと思います。
それでは以下、データに関する興味深い記事の紹介です。
最近の興味深い英文の記事
Googleの最新AIプロジェクト
3 ways AI is scaling helpful technologies worldwide - リンク
最近GoogleはAI関連のイベントを開催しましたが、現在Googleが力を入れている3つのタイプのAIを発表していました。
まず最初に、世界中に7000もあると言われる言語のうちの1000の言語をモデル化する計画とのこと。さらに400言語を元にしたユニバーサルスピーチモデル(USM)というのをすでに開発したとのことです。こうしたモデルができると、翻訳はもちろん、会話からテキストへの変換なども様々な言語に関して可能になるとのことです。
2番目が最近AI業界で流行りのテキストを元にイメージを生成するというものです。さらに、イメージだけでなく、音声やビデオなども生成することができるようになるとのことです。
最後は「気候変動」に関するものですが、山火事や洪水がどの範囲にどんな速さで広がっていくかをリアルタイムで予測するモデルを、サテライトイメージや過去のデータなどをもとに作り、GoogleサーチやGoogle Mapsなどを通して提供しているとのこと。トランスファー・ラーニングのモデルを使って、データがまだあまりないような地域、国でも、同じように予測できるように取り組んでいるとのことです。
最近AI業界はだんだんと冬に入ってきているようで、AIによって何ができて何ができないかが明らかになってきたこともあって、一時の盛り上がりを失っているようですが、GoogleやMeta(Facebook)のAIチームは頑張って業界を盛り上げようとしているようです。
自動運転の冬
Ford, VW-backed Argo AI is shutting down - リンク
前回のニュースレターでも取り上げましたが、「自動運転の冬」というの最近のトレンドです。
先週には、Argoというアメリカのフォードとドイツのフォルクスワーゲン傘下にあった自動運転のテクノロジーを提供する会社が解散、閉鎖するとのニュースが入ってきました。フォルクスワーゲンに移る一部の従業員を除き、ほとんどの従業員が解雇されるとのことです。
フォードもフォルクスワーゲンも、これからは運転手をサポートするシステムの開発に力を入れ、自動運転のためのテクノロジーの開発は終えるとのことです。
この10年ほど世界は自動運転の世界が今にもやってくると浮かれましたが、残念ながらそうした世界はしばらくやってこなさそうです。運転好きの人にとってはグッドニュースですね。
Amazonの従業員の離職にかかるコストは1年当たり8ビリオンドル(約1兆2000億円)を超える
Exclusive: Amazon’s attrition costs $8 billion annually according to leaked documents. And it gets worse - リンク
リークされた内部文書によるとAmazonでは現在かなり大きな従業員の離職が進んでいるらしく、それにともなうコストが8ビリオンドル(約1.12兆円)ほどという半端ない規模となっているとのことです。Amazonの2021年会計年度の利益は31ビリオンドルだったことを考慮すると相当な規模のコストが発生していることになります。この離職のうち3分の1がレイオフ(解雇)、残りの3分の2は自発的な退職とのことです。
また、2021年に採用された従業員のうち(物流部門含む)の3人に2人は最初の3ヶ月の間に辞めてしまったとのこと。
社内での昇進の可能性がないことや、社内トレーニングシステムが上手く提供されていないことなどが主な辞める理由とのことです。コロナによって急激に需要が伸びた企業は一気に採用を増やしましたが、コロナが落ち着き、さらに今度は経済が傾き始めているのでこうした離職が増えているというのはある程度想定していましたが、それに係るコストがやはり半端ないですね。
従業員の離職、特に自発的な離職というのは、お金ベースのコストもそうですが、それによって失われる知識、機会の損失など、はっきりとしたお金に換算できないコストの方は見過ごされがちです。理想的にではありますが、やはり離職に関する分析は、離職が問題になってからではなく、問題になる前に対応しておけるといいですね。
リテンションや離職に関する分析に関しては私達Exploratoryでも多くの情報を提供していますので、興味のある方はぜひご覧ください。
サブスク型ビジネスデータ分析 - リンク
AIを使った人事採用
Inhuman Resources - リンク
日本ではちょっと前に問題になりましたが、アメリカではAI(予測モデル)を使って就職の応募者のスクリーニングをするのは普通に行われています。
ハーバードとアクセンチュアの調査によるとフォーチュン500にリストされる企業の99%が、それ以外を含めたアメリカ、イギリス、ドイツの全企業の63%が、候補者を探したり、応募者をスクリーニングしたり、さらにはインタビューそのものをさせたりと言ったものも含み、何らかの形でAIを使った自動システムを使っているとのことです。
しかし、特にインタビューでもAIが使われるケースなどでは、けっこう問題があるようです。例えば採用側のAIロボットの英語での質問に対してドイツ人がドイツ語で答えたにも関わらず、その候補者は高く評価されることがあったのことです。また、BMWやルフトハンザ航空で使われていたビデオインタビューのシステムの場合、メガネを掛けていたり、周りの背景などによって評価が大きく変わるということもあったとのこと。
ニューヨーク市は2023年までに、企業が採用に関してAIを使っているかどうかを候補者に知らせる必要があり、AIを使わない採用手段を選べるようにし、さらにそうしたAIシステムはバイアス(偏見)に関する監査を毎年受けなければならない法律が制定されたとのことです。
EUもこの辺りは厳しいようで、そうしたAIの採用システムをEUで提供するベンダーはシステムに「バイアス」が入っていないということを証明する必要があり、さらに採用に使われるアルゴリズムは検査を受ける必要があるとのこと。イギリスも同じような制限を提案することを現在検討中とのこと。
この辺りは、政府や官僚組織が強いEUでは規制が厳しく、企業の影響力が強いアメリカやイギリスでは緩いという傾向があります。ただ最終的に、こうしたAIによる採用システムが含むバイアスによって優秀な人を採用することができずに困るのは、AIシステムを使う企業なわけですから、規制があるないに関わらず自然と修正されていくのではないでしょうか。
データサイエンス・ブートキャンプ・トレーニング #29 & #30
次回の「データサイエンス・ブートキャンプ」は来年1月、そして3月にそれぞれ3日間集中コースとして開催することになっております。
データサイエンス、統計の手法、データ分析を1から体系的に学ぶことで、ビジネスの現場で使える実践的なスキルを身につけたいという方は、ぜひこの機会に参加をご検討ください!
ビジネスのデータ分析だけでなく、日常生活やキャリア構築にも役立つデータリテラシー、そして「よりよい意思決定」をしていくために必要になるデータをもとにした科学的思考もいっしょに身につけていただけるトレーニングとなっています。
日時:
平日3日間コース: 2023年1月18日(水), 19日(木), 20日(金)
平日3日間コース: 2023年3月22日(水), 23日(木), 24日(金)
SaaS/サブスク型ビジネスのためのデータ分析トレーニング 12月開催
SaaSやサブスクリプションビジネスの改善に必須である、ビジネス指標(KPI)の定義、コンバージョンやチャーン(解約)の要因分析、さらにそれらの先行指標となるエンゲージメントの計算方法や分析手法といったものを一気にハンズオンを通して学ぶことで、即現場で使えるスキルを身につけていただくためのトレーニングです。
日時: 平日2日間コース: 2022/12/8 (木)、9 (金)
今週は以上です!
それでは、引き続きよろしくお願いいたします!
西田, Exploratory/CEO
KanAugust