Exploratory Newsletter Vol. 80
よくある大きな間違いの1つは、政策やプログラムをその意図で評価してしまうことだ、結果ではなく。
ミルトン・フリードマン
こんにちは、西田です!
お久しぶりです!
日本では現在ゴールデンウィーク中だと思いますが、今年のゴールデンウィークは人通りも多くなっていると聞いております。この2年の間何かと不自由で閉塞感のある生活を送られている方も多かったと思います。この辺りでようやく普通の状態に戻っていくかと思っていたら、今度は円安とインフレのダブルパンチによって徐々に多くの人たちの生活に影響が出始めているようです。
現在ウクライナでの戦争もあり、世の中がさらに混沌としています。そんなとき、これからどうなっていくのか?何をすればよいのか?と将来のことばかりに目が行ってしまい、考えれば考えるほど不安が増大してしまいがちです。
しかし、こんなときこそ、まずは現状の把握に努めるべきだと思います。というのも、現状というのはわかっていると思いがちですが、実は勘違いしていたり、よくわかっていなかったりするものです。私たちが持つバイアスや思い込み、そして偏った報道を流しがちなメディアによる情報の不均衡、様々な理由があると思います。
そこで、データを使って冷静に自分の思い込みが正しいのかどうか確認し、さらに自分の疑問に自分で答えていく努力をすることで、現状をより正しく把握できるようになるのだと思います。(必要なデータは検索すれば思った以上に簡単に見つかります。)
現状を正しく把握することなしに、将来について思いを巡らすのは、砂の土台の上に豪邸を建てようとするほど頼りにならないことでもあります。
データリテラシー、つまりデータを「集め、疑問に答え、仮説を検証する」ことができるスキルがこれまで以上に今まさに必要とされているのではないかと、強く思います。
それでは、少しご無沙汰しておりましたが、今回もいくつか興味深い記事を共有させていただきます!
最近の興味深い英文の記事
FAANGでデータ関連の仕事をする人たちの給料
Data salaries at FAANG companies in 2022 - Link
アメリカやヨーロッパでは自分の給料情報を公開、または特定のサービスに提供したりする人たちがけっこういますが、そうしたデータを元に、FAANG(Facebook, Apple, Amazon, Netflix, Google)と呼ばれるアメリカの巨大テック企業でデータ関連の仕事をする人達の給料を調べた記事がありました。
この記事によると、彼らの給料の中央値は$220,000 (約2800万円) から$250,000 (約3250万円) のあたりとのことです。
前からシリコンバレーなどではデータサイエンティストの給料は特に高いことが有名でしたが、今回の対象はデータサイエンティストだけでなく、エンジニア系やマネージャーといった人達も含め、データに関わっている人たち全般となります。
$220,000 (約2800万円) から$250,000 (約3250万円) という数字はすごく大きなものですが、上には上がいます。なんと、Netflixでデータ関連の仕事をする人たちの給料の中央値は$450,000 (約5850万円)!とのことです。
Netflixは、採用インタビューの際に候補者に他の企業の採用も受けるように促し、それらの企業で提示された給料の額がNetflixが提示する額よりも上だった場合は、それを上回る額を提示します。さらに、同じような仕事をしている既にNetflixで働いている従業員の給料も同じ水準に引き上げる、というポリシーがあります。
CEOのリード・ヘイスティングによると、優れた人材が退職することによるコストは膨大であるので、給料を競争力のある水準に保つことで退職のリスクを減らすほうが結果的に安くすむ、とのことです。
こういう背景を知っていると、Netflixでデータ関連の仕事をする人たちの給料の中央値が$450,000 (約5850万円) と聞いても驚きはしません。いや、嘘です。シリコンバレーの給料水準に慣れている私でさえ、むちゃくちゃ驚きです!
ちなみに、高い給料を求めてFAANGに就職すればよいかと言うと、注意が必要です。というのも、同じ会社でもUS以外のオフィスでは例えデータに関する仕事をしていたとしても、USで働く人達の水準となるとは限らないようです。
例えばAmazonの場合、USでデータ関連の仕事をする人達の給料の中央値が$220,000 (約2800万円) であるのに対して、ヨーロッパは$116,000 (約1500万円) 、その他地域の場合$106,000 (約1360万円)とのことです。
データ関連プロジェクトはデータサイエンティストだけのものではない
Your Data Initiatives Can’t Just Be for Data Scientists - Link
組織の中でデータサイエンスまたはデータ分析関連のプロジェクトが始まると、ついついデータサイエンティスト、またはデータ関連の仕事をしている人達に丸投げしてしまいがちですが、こうしたプロジェクトの成功にはデータの専門家ではない、「普通」の人達の積極的な関与が必須です。
大抵のデータサイエンスのプロジェクトは以下のこと5つのことが必要になる
問題の理解
データの収集と準備
データの分析
見つけたことの理論化
わかったことをもとに施策に移す
それぞれのステップに「普通」の人達のインプットが、協力者として、情報の消費者として、さらにデータの作成者として重要となります。もしこうした「普通」の人達を参加させることができなければ、プロジェクトは失敗するでしょう。
それでは、どのようにデータのスキルに自信のない「普通」の人達をデータ関連のプロジェクトに巻き込んでいけばよいのでしょうか。
「普通」の人達が、必要とするデータのスキルを仕事を通して身につけていけるよう、そうした支援を管理するデータチームを組織の中に作る。
うまくいくやり方の一つとして、それぞれのチームに「データ・マネージャー」と言われる人をアサインし、そうした人達のネットワークを組織内に作る。この人達は、中心となるデータチームではなく、それぞれのチームに属する。
データチームは小さいが、それぞれのチームにアサインした「データ・マネージャー」のネットワークは大きなものになり、それぞれのデータ・マネージャーは3分の1の時間を「普通」の人達のデータに関する支援に費やす。
この記事を書いた人はアメリカの様々な企業でデータサイエンス関連のプロジェクトに外部コンサルタントとして関わってきたとのことですが、シェルやシェブロン(いずれも石油会社)、ガルフ銀行といったところでこうした「データ・マネージャー」をアサインすることでうまくいったとのことです。
データサイエンスはどう変わってきたのか?
Will It Scale? Applying Data, Science, and Economics to the Art of Ideas - Link
最近「The Voltage Effect: How to Make Good Ideas Great and Great Ideas Scale」という、ビジネスにとって「優れたアイデア(新商品や新しい施策など)」とはスケールするもので、スケールさせるためにやることは科学的なものなので、「優れたアイデア」を科学的に見極め、育てることができるという本を書いたジョン・リスト氏のインタビュー記事がありました。
彼は、元UberとLyftのチーフエコノミストで、現在はウォールマートで同職についていますが、シカゴ大学で経済学の教授でもあります。インタビューは、シリコンバレーのトップベンチャーキャピタル、A16Gによるものです。ここでは、その中でも特に興味深い部分を以下に抜粋します。
学問としてのデータサイエンスはどのように変化してきましたか?
データサイエンティストはかつてはエコノメトリクス(計量経済学)と呼ぼれるものでした。彼らはエコノメトリシャン(計量経済学者)と呼ばれ、因果関係を把握することを主な仕事としていました。
データサイエンスという新しい言葉が出てきてもやろうとしていることは同じです。しかし、多くのデータサイエンティストは相関関係を見つけると、多くの場合そこで終わってしまいます。相関関係は興味深いものですが、そこまで多くの人が言うほど重要ではありません。それらはデータを探索する際の始まりであって、終わりではありません。
現在のようにこれだけのデータがあって経済学に対する注目が高まっていますが、私たちは顧客の購買習性というものに対しての理解は深まっているのでしょうか?それとも、顧客はあいからわず「不合理」に行動し続けるものなのでしょうか?
昔であれば、あなたが10ドルのTシャツを買えば、それはマーケットの需要に対するあなたの貢献ということで終わりました。
現在では、なぜあなたはこのTシャツを買ったのか、それは自分自身のためか、それとも子供のためか、といったことを把握することができるようになりました。
以前であれば、1つの購買は売上として集計される1つのデータポイントにしか過ぎなかったのが、今はその購買の裏にある「なぜ」を理解できるようになったのです。そしてこうした理解を元に、あなたのビジネスにとって良い変化をもたらすためのインセンティブ(動機付け)やポリシーを施策として打てるようになったのです。
今週のチャート
ロシアによるウクライナ侵攻が2月14日に始まり、その2日後の26日には欧米のロシアに対する金融制裁ということで、国際金融取引システムからロシアの銀行が追放されました。
この制裁により、実質的に国際取引にルーブルが使えなくなったことでルーブルの価値は紙切れ同然になると当初は言われたものですが、2ヶ月以上経った今、そのルーブルのドルに対する価値は制裁前よりも高い水準となっています。
それどころか、逆に日本円は(そしてユーロも)ドルに対して価値が落ち続けています。日本円の価値が落ちるのは、この制裁による直接の影響というよりも、むしろ日米の国債の金利差、金融政策の違いといったものにより強い影響を受けていると言われています。
それにしても、制裁を行っている国の通貨の価値が制裁を受けている国の通貨の価値よりも悪くなるというのは、さすがに制裁を開始したときには想定されていなかったのではないでしょうか。
これに関する考察をこちらと、こちらにツイートしてますので、興味のある方はご覧ください。
国際政治や国の政策はより複雑な背景がありますので、ここでどうするべきかを話すつもりはありません。しかし、ここでデータ分析という観点から学べることがあります。
それは、このように前提が間違っていた、または想定通りに行っていないというときはその事実を受け入れ、新しくわかったことをもとに意見を変える、または修正する、そして施策を見直すといったことができるかどうか、これこそがデータ分析をする目的だと思います。データを見て何がわかったとしても、その前後で意見が変わらない、施策が変わらないのであれば、データを使う意味は余りなくなってしまいます。
データサイエンス・ブートキャンプ・トレーニング #26 & #27
次回の「データサイエンス・ブートキャンプ」は5月の3日間集中コースと6月の10日間夜間コースとなっております。
データサイエンス、統計の手法、データ分析を1から体系的に学ぶことで、データリテラシーを高め、さらにビジネスの現場で使える実践的なスキルをつけたいという方は、ぜひこの機会に参加をご検討ください!
日時:
5月 平日3日間全日コース: 2022/5/18(水), 19(木), 20(金)
6月 平日10日間夜間コース: 2022/5/31(火)〜 6/30(木)
今週は以上です!
西田, Exploratory/CEO
KanAugust