「全ての偉大なビジネスは外から見えない「秘密」をもとに作られた。そうした「秘密」を見つけたければ、まわりの常識を疑うところから始めることだ。」
ピーター・ティール、起業家、投資家
こんにちは、西田です!
いきなりですが、「バタフライ効果」というのを聞いたことありますか?
もともとは、「ブラジルにいる1匹の蝶の羽ばたきがアメリカのテキサスに竜巻を起こすかもしれない」という仮説から来ているのですが、科学や予測の世界では最初のちょっとした初期値の違いが後で大きな違いを生み出すので、現実世界の現象は予測するのは難しいという、カオス理論を説明する時に出てくる例え話です。
今回のウクライナ侵攻の件で、アメリカはロシアへの半導体の輸出を禁止しました。これはアメリカだけでなく、日本も含め他国でもアメリカの技術を使った半導体はロシアに輸出できません。これでロシアは半導体を使えなくなるので、多くの産業が大変なことになるでしょう。
ここまでがメディアなどで報道されているシナリオです。
ところで、一般的な車では1400もの半導体が搭載されているらしいのですが、知ってましたか?
タイヤの気圧システム、ブレーキシステム、ライトのシステム、オーディオ、など様々なものを動かすために使われているとのことです。もちろん車だけでなく、私たちの日常を見回せばコーヒーメーカー、冷蔵庫、電子レンジなどと半導体を使っているものだらけです。
その半導体ですが、生産する過程で「プロセスイオンガス」を使ってレーザーでシリコンの上に基盤をつくっていくらしいのですが、そのプロセスネオンガスは世界で消費される70%がウクライナのオデッサにある1つの工場で生産されているらしいのです。
このオデッサはロシアにとって戦略的に重要な場所なので、いずれ制圧されるかもしれません。すると、半導体の輸入を禁止されたロシアは「プロセスイオンガス」の輸出を止めるのではないでしょうか。
それはもちろん世界中の半導体生産に影響を及ぼし、半導体を使う様々な産業、そして様々な最終製品を使う私たち消費者に影響をおよぼします。
現在はロシアからのガスや石油に輸入が止まった影響で、これまでインフレで上昇傾向のあったガソリンの価格が一気に上昇しています。これは私たち消費者にとっても、制裁を加えるとそのインパクトもわかりやすいです。それはインプットとアウトプットが私たちの感覚からするとほぼ同じだからです。
ところが、半導体のように、私たちが商品として消費する「アウトプット」と、それを生産するときの過程で入ってくる「インプット」にあまりのも差があると私たちにはその影響を想像すらできません。
他にも例はたくさんあります。例えば、ボーイングは35%、エアバスは50%の消費するアルミニウムはロシアからです。アルミニウムのロシアからの輸入停止はもちろん航空産業だけでなく、他にも多くの産業に影響を及ぼすでしょう。
ガスや石油の供給が逼迫するからこの機会に電気自動車に乗り換えろ、といった議論がアメリカではありますが、その電気自動車のバッテリーはリチアム、コボル、ニッケルなしでは作れませんが。そしてそれらの世界最大の生産者はロシアです。
これから世界中のサプライチェーンのシステムが予想できない緊急事態に入っていくのではないでしょうか。私たち市民は、もちろんアメリカ(そして日本)の政策担当者はそのへんを理解してやってるんだろうな、と期待します。しかし、ほんとにそうなんでしょうか?
ロシアに制裁を加えるのは理解できますが、アメリカの政策担当者は将棋のように次の何十手と考えた上で一歩一歩駒を打っていってるのでしょうか?もちろん、「バタフライ効果」のようにランダム性や確率性を相手にしているとき、次の何十手先など考えても無駄なのかもしれません。
現在、西側にいる多くの市民はウクライナ危機を自分の問題として捉えることができないでいます。それは自国が将来侵攻されるかどうかといった意味で言っているのではありません。
そうではなく、私たちの明日の生活に間接的に、しかし破壊的な影響を及ぼす可能性のある戦争が、今ウクライナで起きているということを想像できないという意味です。
もちろん、心配しているようなことは起きないかもしれません。いずれにしても、こうしたことは政府、メディア、そして「専門家」と言われる人達には予想不可能なことなので、結局私たちひとりひとりが、何が起きているのか、その真実に迫っていくための仮説を作り、それを検証するために質問を繰り返し、答えを探し求めていく、ということが重要なのではないかと思います。
また最初から話が重くなりましたが、それでは今週もいってみましょう!
最近の興味深い英文の記事
学生がデータサイエンスを諦めてしまう3つの理由
現在多くの大学でデータサイエンス教育が始まっていますが、データサイエンスの「専門家」がカリキュラムを作るとついつい自分たちの持ってるスキルを前提に作ってしまうため、学生からするととっつきにくく、逆にデータサイエンスとは難しくて特別な人がやるものだと思ってしまいがちです。
そういった難しくするものが、プログラミングであったり、難しい数式であったりします。さらに、結構見落とされがちな点ですが、授業が退屈になってしまう原因の一つが退屈なデータです。
以上の3つの点に関して最近Team Exploratoryの白戸がまとめてくれた記事がこちらにあるので、興味のある方はぜひご参照下さい。
学生がデータサイエンスを諦めてしまう3つの理由 - リンク
データサイエンス教育の3つの問題点
データサイエンスの教育を行う際によく見落とされがちなのが、現実のデータを自由自在に加工できる力、モデルを含めたデータから得られた知識を他の人に伝える力、というものです。
一年間の授業でせっかく様々なアルゴリズムやモデリングを学び、統計の知識も手に入れたにも関わらず、いざビジネスの現場に立ってみると役に立たない、ということになるナンバーワンの理由でもあります。
上記の2つに加えさらにスケーラビリティという点も含めた上で、このあたりの問題を最近Team Exploratoryの村里がまとめてくれた記事がこちらにあるので、興味のある方はぜひご参照下さい。
データサイエンス教育の3つの問題点 - リンク
データドリブンな組織になるのはなぜ難しいのか?
フォーチュン1000にリストされてる会社のCレベルの取締役(CEO, CDO/Chief Data Officer, CAO/Chief Analytics Officer, CMO/Chief Marketing Officer, etc.)を対象にした聞き取り調査の結果が「Data and AI Leadership Executive Survey 2022」というレポートとしてまとめられていました。
多くの会社がデータやAIに関する投資を増やし、様々な取り組みを進め、成果も上げているかに関してまとめられています。
今年の調査では、データやAIに関する投資よりリターンを得ることができていると答える組織は92%と過去に比べて大きく上昇しています。
しかし、それと同時にデータドリブンな組織に移行するのにみんな苦労しているとのことでした。
56%ほどの組織がデータを使うことでビジネスのイノベーションを起こしていっていると答えているのに対し、データドリブンな組織を作れたと答えているのは4分の1ほど(26.5%)ほどしかありません。
そしてその問題は、テクノロジーというよりも、人、つまり組織の中でデータを使って意思決定を行っていくという文化を作ることが難しいとのことです。
テクノロジーであれば、あるシステムを買って、インストールすれば終わりですが、組織の文化を変えていくのは大変です。それは人の変化を必要とするからです。
このあたりはスタートアップに優位性があります。というのもデータに関するテクノロジーのコストは低く、導入も小さく始めることができるため、最近のスタートアップであれば最初から様々なデータがあり、それらを使って意思決定を行っていくのは当たり前であり、さらにそういうことがうまいスタートアップが結果として生き残っていくからです。
もともとそうではない組織、そういったことに慣れていない人達がたくさんいる組織にとっては、いきなりデータを使って意思決定を行っていく組織に移行するというのは一筋縄にはいきません。
それでも、変えていくことができなければ、うまくいっている他のビジネスに淘汰されていくことになるので、だまって指をくわえているわけにもいきません。
私がそうした時に推奨するのは、まずはビジネスの改善にとってもっとも重要な指標を決め、それを毎日、毎週、または毎月モニターし始めましょう、ということです。もしモニターし続けなくなったら、それはその指標が自分たちにとってあまり重要ではないということなので、改めて変える必要があります。
あまりにも多くのスタートアップがデータ分析するときに犯す4つの失敗パターン - リンク
しかし、そうした共通の指標をモニターしていくことにより、それを改善するために組織内の様々なところからアイデアがでてくるものです。そこからデータ分析がはじまり、データ分析の効率化のために、データ基盤の整備の話がでてきたりします。
重要なのは、組織がデータをいかに必要とするようになるか、だと思います。
もちろん他にも様々なやり方があると思います。私たちExploratoryが隔月で開催している「データサイエンス勉強会」でも過去に多くの方がどのようにデータ分析やデータの活用を組織の中で広めていったかの話をして下さっているので、興味のある方は是非参考にしてみて下さい。
今週のチャート
もともとインフレーションがひどくなってきたところに、今回のロシア制裁によって世界中のガスや石油の価格がとんでもないレベルまで上昇しています。
そこで経済オンチの現アメリカ政権は国民にこの機会に電気自動車に移行しろと、あまりにも世間の感覚と離れたことを言っていました。しかし、電気自動車の電気はガスや石炭を燃やすことによって作られます。再生可能エネルギー(風力、ソーラー、など)はまだ割合が小さく、さらに原子力発電は過去何十年も増設されないどころか、廃止される方向でした。
そこで、現在のアメリカの電力の価格を見てみたのですが、一気に上昇していました。
ロシアに制裁を加えることによって、「ロシアの人々の生活は苦しくなる」と政府やメディアは言いますが、アメリカ人の交通手段である車に必要なガソリン価格が高騰し、家庭で必要な電気代が高騰するとき、日本を含む欧米の市民の生活が苦しくなるのは避けることはできません。
ところで、カンの鋭い人は気づいたかもしれませんが、上のチャートで電気代がすでに高い市はカリフォルニア、ニューヨークですが、いずれも大きな州と高い税金を好む民主党の強い州です。これらの州では全般的に税金が高いのですが、電気代にも税金や様々なタイプの費用がつけられるためです。
「学校からはじまるデータサイエンスの民主化」セミナー(無料)
今週の金曜日、3月18日に「学校からはじまるデータサイエンスの民主化」セミナーを開催します!
現在日本でも多くの学校でデータサイエンス教育を始めようと計画されていますが、何を学ぶべきなのか、どのようにカリキュラムを組めばよいか、教科書はどうするか、どういったサポート体制が必要か、レベル感は、文系と理系の違いは、などといった疑問を抱えていませんか。
そこでこの度、すでに大学でExploratoryを使って文系理系問わず幅広くデータサイエンスの教育を始められている先生方をお招きし、自らの経験をもとに現場での取り組みや課題などといったお話をしていただけることになりました。
これからデータサイエンス教育プログラムを作っていこうとされている方、また、すでに始められている方にとっても、他の学校の現場での経験から多くのヒントが得られるのではないかと思っております。
もちろん、大学関係者だけではなくデータサイエンス教育に関して興味のある方は誰でもご自由にご参加下さい。学生の方も大歓迎です。こちらのセミナーは無料となっております。
お時間の都合のつく方は、ぜひ参加をご検討下さい!
今週は以上です!
西田, Exploratory/CEO
KanAugust