人間が最も得意とするのは、どんな新しい情報でも、すでに出来上がっている自分の考えと辻褄の合うように解釈してしまうこと。
ウォーレン・バフェット
こんにちは、西田です!
来週東京で開催のデータサイエンス・ブートキャンプやいくつかのセミナーのために今週末日本に飛び立つ予定です。前回の6月からすでに3ヶ月が経ちましたが、また滞在中にセミナーなどを通して多くの方と直接お会いできると思うと、今からすごく楽しみです。
さらにそのタイミングで、来週27日の水曜日の夕方、東京駅近くで「AIは誰のものなのか、独占か民主化か」というテーマでセミナーを開催します。詳細はこのニュースレターの最後を見ていただきたいのですが、お時間の都合のつく方は、ぜひご参加をご検討ください。より多くの人と直接お会いできるのを楽しみにしております。セミナーへの参加は無料です。
それでは、今回は4つのデータ、AIに関する記事・ニュースの紹介となります。
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AIリスク #3:AIは私達の社会を破壊するのか?
AIの危険性と言われるものに関して1つ1つ冷静に分析していく「AIリスク」シリーズの第4弾となる今回は、「AIが私達の住む社会を破壊する」というのはほんとうなのかということに関しての考察となります。
この「AIによる社会の破壊リスク」という恐怖を煽ることによってAIの「密売人」が実現したいのは、AIによって生成されるコンテンツや情報に対する規制、さらには言論や思想に対する検閲だと著者のマーク・アンドリーセンは言います。
彼はFacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグのアドバイザーを務め、さらに自身が代表を務めるA16Zというシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルを通して、言論の自由を守るニュースレターのプラットフォームを提供するSubstackなどを含め、多くのソーシャルメディア関連のスタートアップにも関わってきました。そのため彼は、アメリカやヨーロッパの政府、さらにNGOなど活動家組織がどのように情報、言論、そして思想をコントロールしようとするかを最前列で見てきました。
実際、この10年ほどの間FacebookやTwitter、Youtubeといったメディアプラットフォーム上で政府による言論弾圧が繰り広げられてきたわけですが、現在その戦場がAIに移っているというのが彼の主張です。
AI、そしてAIが生成するコンテンツに対する規制に関する戦いは、これまでの言論の自由を求める歴史上の戦いの中で最も重要なものであるという彼の主張に、より多くの人が耳を傾けていただければと思います。
AIのオープンソースに反対する動き
現在アメリカでは政府や大企業が全てのAIの開発を管理するというトップダウンか、それとも誰でも新しいAIを素早く作ることができ、自由に使うことができるオープンソース型の開発というボトムアップかで意見が別れています。
そんな中、数年前に囲碁のチャンピオンを打ち負かしたAlphaGoの開発元であるDeepMind(現在はGoogle傘下)の創業者のスレイマンがオープンソースに反対する意見を最近X(Twitter)上で表明し、彼のコメント欄は大変荒れていました。(リンク)
彼は、オープンな環境で誰もが勝手にAIを開発するのを許すと、それは文明が破壊するようなことになるかもしれないため、これまで科学の世界で数百年に渡って行われてきたようなオープンな環境での実験、研究、開発というのはもう許されるべきでない、と主張します。
みなさんはどう思われますか?
Zoom:ユーザーの強い反対に直面した後、ユーザーのビデオ会議をAIの学習データとして使わないと声明
Following Pushback, Zoom Says It Won't Use Customer Data to Train AI Models
ちょっと前にZoomはユーザーのビデオ会議の動画や会議中に使われるチャット、アンケート、ホワイトボードなどを自分たちのAIの学習データとして使うと発表したのですが、それに対して反対するユーザーの声は日を増すに連れ大きくなっていきました。
最終的に、Zoomは方針転換し、今後ユーザーデータをAIの学習デートして使うことはないとする声明を出すこととなりました。
ビデオデータを勝手にZoomの開発するAIに使うというのは、プライバシー保護という観点からの懸念はもちろんあります。ただ、そもそもAIに関係なくすでにZoomは中国政府の要請を受け、いくつかの触れてはいけないトピックに関して話した会議は終了するという措置をとっています。Zoomはアメリカの企業ですが、中国政府との強いつながりは有名です。
今回の問題は、そもそもAIに使われる学習データは誰のものなのか、ということではないかなと思います。一般的にAIはデータ量が多ければ多いほど性能が良くなります。すると例えばアメリカ人であればZoomを使うことで、ZoomのAIの性能は良くなるが、競合するアメリカの企業、例えばMicrosoftやGoogleなどのAIの性能は良くなりません。それはアメリカ人として、さらにアメリカ政府として良いのか、というややこしい問題があります。
外から見ているので実際のところはよくわからないのですが、次から次へと日本に進出してくるアメリカのAI企業に対して日本政府、日本企業は少し無防備すぎるのではないかと個人的に心配しています。
NetflixによるA/Bテストの3つの注意点
What is an A/B Test? - リンク
データ使ってほんとうに知りたいことは、XをやるとYになる、またはYの値が上がる(下がる)といった因果関係ですが、相関と因果は違うとよく言われるように、一般的に、データから見つけ出される関係とは相関関係であって、因果関係でありません。
しかし、「適切に」デザインされた実験環境から得られたデータであれば話は別です。そこで実験環境を適切にデザインするためによく使われるのがA/Bテストまたは医療など研究の世界ではランダム化比較試験です。
A/Bテストとはユーザーを2つのグループ(AとB)にランダムに分別し異なるページを見せたり、異なるメッセージを発信したりして、どちらの方が良い反応があるのかを比べます。
シリコンバレーに限らずテック業界ではよく使われる手法ですが、みなさんおなじみのNetflixも毎日何百ものA/Bテストを流しています。そのNetflixがA/Bテストとは何か、実施するときに気をつけておくべき点などをまとめていました。
A/Bテストに興味のある方はぜひ、Exploratoryチームの村里による翻訳記事をご参照ください。
今週のチャート
先週は、暴落中のアルゼンチン・ペソ(通貨)を可視化しました。
日本のメディアなどでは「極右」、「トランプ派」と呼ばれるハビエル・ミレイ氏が最近、大統領選の予備選挙でトップとなりましたが。彼はアルゼンチン国民、特に若い層に強い人気があります。
実はミレイ氏の人気の影には、長年に渡るアルゼンチンの通貨の下落傾向、それに伴う年率100%を超えるハイパーインフレという深刻な現実があるようなのですが、上記のチャートを見るだけでも、他の通貨に比べアルゼンチン通貨の異常な下落ぶりが見て取れます。
こちらのデータの取得方法、そして可視化の仕方をこちらのビデオにまとめていますので、興味のある方はぜひ見てみてください。(リンク)
ところで、毎週興味深いデータをピックアップし、そのデータを可視化することで現実世界の真実に迫っていこうとする、「This Week’s Data」という企画を数週間前よりオンラインで始めました。こちらは毎週火曜日に開催しているExploratoryアワーの中でやっています。
先週はアルゼンチン・ペソのデータを見ましたが、他にも以下のようなデータをこれまで見てきました。
どれも、データを取得するところから始め、必要であれば加工し、さらに可視化するという一連の流れをステップ・バイ・ステップで簡単に説明したライブデモとなっています。
Exploratoryは有料版とともに、Exploratoryパブリックという無料版もあります。また学生や先生の方はExploratoryアカデミック版(無料)もあります。
みなさんもぜひ自分の手で試してみてください。より多くの人が自分の手でデータを集め、観察することで、現実世界の真実に少しでも近づいていけるようになればいいなと思っています。
データサイエンス・ブートキャンプ・トレーニング #33
現在、毎回人気のデータサイエンス・ブートキャンプ - 12月版の参加申し込みを受付け中です!
12月版も東京でのクラスルームでの対面授業形式での開催となります。授業内容を振り返るためにトレーニング中4回ほど、参加者どうしでグループを作っていただくエキササイズの方も用意しております。
ビジネスのデータ分析だけでなく、日常生活やキャリア構築にも役立つデータリテラシー、そして「よりよい意思決定」をしていくために必要になるデータをもとにした科学的思考もいっしょに身につけていただけるトレーニングとなっています。
データサイエンス、統計の手法、データ分析を1から体系的に学ぶことで、ビジネスの現場で使える実践的なスキルを身につけたいという方は、ぜひこの機会に参加をご検討ください!
日時:
2023年12月12日(火), 13日(水), 14日(木)
場所:東京八重洲(対面形式)
データリテラシー・セミナー:AIは誰のものなのか、独占 or 民主化
今年に入ってからChatGPTなど新しいタイプのAIの話題に毎日事欠かせません。実際すでに多くの人がChatGPTのようなAIに触れることが当たり前になり、新しいことができるようになり、仕事がより効率化され、新しいビジネスや学びの機会が生まれています。しかしその反面、AIによって仕事が失くなる、社会が破壊されてしまうなどといった負の面に関する議論も盛んです。
そういったメリット、デメリットに関する議論はそれはそれでどれも興味深いものなのですが、実は現在アメリカの政治とテック業界がしのぎを削っている最も緊急で重要な問題があります。
それは私達の思考、意思決定に直接影響を与えることになるAIは誰のものであるべきなのか、誰が管理するべきなのかという問題です。すでに中国はこの問題に対して答えを下している反面、アメリカでは現在シリコンバレーのテック業界とワシントンの政治家を巻き込んだ激しい議論が続いています。
この議論の結果下される答えはアメリカという国家の形を左右するだけでなく、日本も含める西側諸国の将来にも大きな影響を与えるでしょう。
そこで、今回のセミナーでは現在メディアなどを通して騒がれているAIのリスクとは何なのかを整理し、AIの歴史的、思想的、そして技術的な背景を踏まえた上で、私達が現在ほんとうに懸念すべきこととは何なのか、アメリカはどこへ向かっているのかといったことに関して、話をしたいと思います。
お時間の都合のつく方はぜひご参加下さい!
日付 : 2023年 9月27日(水)
時間:18:30 - 20:00 - セミナー、20:10 - 懇親会
会場:AP東京八重洲
今回は以上となります。
それでは、素晴らしい週末をお送りください!
西田, Exploratory/CEO
KanAugust