この2年に渡るコロナウイルスによるパンデミックによって、とくに旅行関連、飲食店などサービス産業をはじめとする多くの中小企業の多くが閉鎖、縮小に追い込まれてしまいました。
その逆に、AmazonやShopifyのようなEコマース / オンライン・ショッピングのインフラを提供するテック大企業にとってはパンデミックはビジネスを急成長させる機会となりました。
この事実は、なんともいい難い後味の悪いものがありますが、それでもEコマース/小売業界がパンデミックによってどのように変化したのか、そのトレンドをつかんでおくのは重要ではないかと思います。
そこで、Marketplace PulseというEコマース業界のリサーチ会社がEコマース/マーケットプレース業界の2021年のトレンドに関するレポートを出していたので、その中から興味深い点を抜き出して、こちらに紹介します。
Marketplaces Year in Review 2021 - リンク
パンデミックは小売業界にどう影響を与えたのか
Eコマースが小売全体に対して占める割合はここ数年の間上昇傾向でした。パンデミックが始まるとその割合は一気に高くなりましたが、その後は去年の後半にかけてパンデミックが落ち着いてくるに連れ、パンデミック前のトレンドを元にした上昇率(グレーの線)と同じ程度に落ち着いてきているようです。
それでも、2020年のパンデミックはより多くの人がオンラインで購買するトレンドにとって、ブーストだったのは間違いないようです。というのも、Eコマースの売上はパンデミック前の成長率をもとに予測された売上額(グレー)に比べて2021年の第3四半期の時点で11%の上昇、または2兆円ほど上がっています。
ここでおもしろいのが、Amazonの場合はこのパンデミックによるブーストはパンデミックが収まるにつれ効果が薄れていき、パンデミック前の成長トレンドに収束しているのですが、逆にAmazonにとってはEコマース業界のライバルとも言える、Shopify、Etsy、eBayなどはまだパンデミック前の成長トレンドと比べてもはるかに高い売上を上げています。
サプライチェーン(流通)の変化
この1年ほどサプライチェーンが大変なことになっています。日本ではどうなのかよくわからないのですが、私の住むアメリカでは日常にも影響が出るほどに顕著です。頼んだものが届くまでに時間がかかる、そもそも商品が在庫にない、といった具合です。私が去年11月に注文したオフィス用の椅子は2月まで届かないとのことで現在も待っている最中です。
もちろん、こうしたサプライチェーンの混乱はAmazonにも大きな影響を与えますし、さらにはそのAmazonのマーケットプレースに店を出している業者にも大きな影響を与えます。
以下は、中国からアメリカの西海岸向けの船便のコストのこの2年の間の変化を表したチャートです。2021年の7月ころから一気にコストが上がっているのがわかります。
パンデミック以前の2020年1月頃には$1500だったコストが去年の9月には$20,000までと、10倍以上の上昇です。
もちろん値段というコストだけではなく、輸送時間(待ち時間)も長くなりました。パンデミック前は中国からアメリカ西海岸が40日ほどだったのが、最近では80日ほどと、約2倍近くになっています。
これはEコマース業者にとっては大きなチャレンジだと思います。このようなコストと配送時間を考慮に入れた上での輸送ルートの構築、また在庫の管理と調整といったことをうまくやる会社とそうでない会社で大きな差が出るのではないでしょうか。
Amazonマーケットプレース
AmazonはAmazonがEコマース業者として直接売るだけではなく、数多くのサードパーティ業者がAmazonのプラットフォーム「Amazonマーケットプレース」の上で売っています。最近ではAmazonのEコマースの売上の65%ほどがサードパーティ業者による売上とのことで、その割合はどんどんと大きくなるばかりです。
ちなみに、そのサードパーティ業者による売上は$390ビリオンとのことです。
そして、その額がいかに大きいかということを示すために各国のGDPと比較したのが以下のチャートですが、デンマークのGDPと同じほどです。
Amazonの強敵、Shopify
ところで、ここまで大きく独占的なAmazonには誰も敵わないと思われがちですが、カナダに本社があるShopifyという小売業者向けにEコマースサービスを提供する会社がここ数年ものすごい勢いで追い上げています。
以下はAmazonのEコマースの売上に対するShopifyの売上の比率を表したものですが、2018年にはAmazonに比べて4分の1ほどだったShopifyの売上は、去年には半分ほどに追い上げています。
ShopifyはAmazonと違い、小売業者が自分たちのウェブサイトで自分たちの商品を売りたいときに使えるEコマースに関するサービスを提供しています。こうしたポジショニングと戦略はもちろん素晴らしいのですが、彼らはデータを使ってそうした戦略を効率的に実行していくことができています。
Amazonと同じくShopifyもデータを使うのがうまい会社ですが、データとエンジニアリングのチームは参考になる情報の発信も積極的にしています。
Eコマース、またはオンラインでの小売ビジネスはまだまだ大きな成長段階です。
そして、パンデミックのようなイベントがあると顧客のニーズ、ビジネス、マーケットを取り巻く状況も日々移り変わっていきます。
こうした流れに積極的に関わり、自分たちの戦略を着実に実行に移していくにはAmazonやShopifyのようにソフトウェアとデータを上手く使いこなすしていくことが欠かせません。そして、そうした企業にはさらなる大きなビジネスチャンスが転がっているということであります。
Shopifyが見せてくれたように、日本からもAmazonに挑んでいくことができるEコマースの星が出てきてくれることを期待したいと思います。
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