Three Steps to the Future - リンク
テック業界で私が注目しているBenedict Evansというアナリストがいますが、彼が毎年発表するテック業界のトレンドの2021年版の発表が最近ありました。こちらにそのスライドが出ていました。
その中から興味深いチャートをいくつか紹介したいと思います。
ケーブルTVの視聴者の減少と解約率の増加
アメリカでは地上波よりも、ケーブルTVをお金を払って見ている人がもともと多かったのですが、現在その購読者(視聴者)の数が急速に減っていっています。
今は、多くの人がソーシャルメディア経由でニュースを見て(読み)、Youtube、Netflixなどのストリーミング経由で映画や番組を見る時代なので、当たり前といえばそうなのですが。
しかしこれは国民が情報をどのように取得するかということでもあります。これまでは国家やニューヨーク/ハリウッドが地上波やケーブルTVの番組を使ってほぼ握っていた情報の流れが、現在は様々な場所から様々な人達によって情報が流されてきます。
1つの見方は、こうしたことで偽情報が多くなるということですが、もう一つの見方は、これまでのように国家や特定の機関が情報を管理・検閲できなくなっているということです。
16世紀にヨーロッパで起こった宗教改革とは、それまで情報を1元管理していたカトリック教会が、印刷機の出現によって情報を管理・検閲できなくなり、それによりプロテスタントが出現、勢力を拡大した、というものですが、今起きていることはそれを思い起こさせます。
映画、TV番組、スポーツ番組の予算
これまでハリウッドに独占されていたメディア業界が、ここ最近はNetflix、Amazonといったテック企業によって風穴を開けられています。以下はコンテンツ政策の予算ですが、2位、4位となっています。
それに対して、Appleのコンテンツ制作にかける予算はかなり小さいです。Apple TVは何かとニュースになり、Appleも自前のコンテンツ制作も行って入るのですが、今のところ全然本気だと言えるレベルではありません。
その答えのヒントは以下のチャートにあります。
Netflixの収益はAppleの収益(右端)に比べると、屁みたいなものです。これはAppleのアプリストアから入ってくる収益よりも低いです。
「イノベーターのジレンマ」によると、すでに成功している企業では、すでに成功している事業の収益に比べて小さな収益しかもたさない新規事業を行う経済的、政治的動機がないため、新しい「破壊的な」イノベーションが起こりにくい、というものですが、少なくともメディアのコンテンツ関連でAppleから新しい風が吹いてくることは当面なさそうです。
物流サービス企業としてのAmazon
Amazonは今となっては、配送を含めた物流サービス最大手です。以下は物流サービス大手による配達量の推移ですが、ほんの数年前までは取るに足らなかったAmazon(赤)が一気に大きくなっています。
Amazonは最近では自前の飛行機やトラックを使って自分たちで配送を行っていますが、ロジスティクスにはさらなる投資を行っています。彼らは膨大な量の注文データや在庫、配送データを持っているので、データ・バーチュアス・サイクル(好循環)という圧倒的な競争的優位があります。
このままでは、最終的にはアメリカでの配送はAmazonで購入しようがしまいが、たいていはAmazonの輸送網に乗っかっていくようになるのでしょう。これはすでに世界中のインターネット上のサービスがAWSの上に乗っかっているのと同じです。
このままでは、世界中の配送はAmazonの配送網に乗っかっていくことになりかねませんね。
データを自社のサービスの向上のために戦略的に使い始めている企業はどんどんと大きくなり強くなるばかりです。
ちなみにAmazonによると、彼らの配送量は来年にはこれまでのアメリカ2大企業のFedexとUPSを足した量を上回るとのことです。
小売のプラットフォームとしてのAmazon
ちなみに、Amazonの小売ビジネスは、実はその収益の60%はマーケットプレイスから来ています。マーケットプレイスとは出品者が自分たちの商品を売ることができるプラットフォームですが、この5年ほどでこのビジネスは急成長しています。
さらに注目したいのは、同じような小売プラットフォームを提供するShopify(赤)です。彼らのビジネスも急速に拡大中ですが、成長率ではそのAmazonを上回っています。
Shipifyは優れたデータチームとデータの文化があることで有名です。前述したような「データバーチュアスサイクル」を持っているAmazonのような大企業に対しても、しっかりとしたゲームプラン、テクノロジー、データがあれば風穴を開けることができるといういい例ですね。
アパレル・家庭用品業界のデジタル・トランスフォーメーション (DX)
このコロナ騒動による2年で様々な業界でDXが一気に進んだようですが、何を持って成果を出していると言えるのか、というときの一つの指標が、どれだけの売上がデジタル(Eコマースを含む)から来ているのかということでしょう。
そういう意味では、ロレアルの去年の売上の30%近くはデジタルから来ているというのは注目に値すると思います。
デジタルからの売上が増加するということはそれだけ、顧客の動向、嗜好に関する最新のデータが直接入ってくるということですから、自分たち独自の「データバーチュアス・サイクル」を作ることができます。この競争優位は見えにくいですが、今の時代には死活的な問題となると思います。
DXと言ったとき、テック企業が提供するサービスを使って自分たちのビジネスのオペレーションをデジタル化するという守りの側面と、逆に自分たちの収益をデジタル化し、そのことで自分たちの「データバーチュアス・サイクル」を作っていくという攻めの側面があります。前者は比較的簡単ですが、後者は難しいです。そこで、後者を行う企業は少ないのですが、後で笑うのは後者です。
テック企業への投資は史上最高レベル
コロナの影響をもっとも受けなかった業界にあるテック企業ですが、そうしたテックのスタートアップに対する今年のベンチャー投資がすごいことになっています。
50ミリオンドル(約57億ドル)以上の投資(赤)はここ数年増加傾向だったのですが、特に今年に入ってから急激に増加しています。
中央銀行による通貨供給量の増加、政府による財政刺激策によってお金が市場に余っている状態になっていますが、そうしたお金が投資先としてテック企業に流れてきているということでしょうか。
コロナ対策という政府によるロックダウンやインフレーションにより中低所得者の多くの人が職を失ったり、毎日の生活に苦しんでいるなかで、シリコンバレーを中心としたテック企業の多くでは収益が上がり、投資も上がり、給料も上がり、といった傾向があります。この2つの世界の人達の間の格差に社会はどこまで耐えられるのかが心配です。
他にも興味深いチャート満載の「テック業界最新レポート 2021年版」ですので、興味のある方はぜひ見てみて下さい。
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日時: 2022/2/15(火), 16(水), 17(木)
講師:西田勘一郎
データラングリング・トレーニング #5
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そこで、現場で使えるデータラングリングのスキルを1から体系的に、そして効率的に身に着けていただくためのトレーニングを提供しています。
次回の開催は1月となります!
日時: 2022/1/19(水), 20(木)
講師:西田勘一郎、白戸敬登